創業期の経理は、最初に仕組みを作った会社とそうでない会社で、1年後に決定的な差がつきます。口座とカードを分ける、証憑を入れる場所を1つにする、月次で見る数字を3つに絞る。最初の3か月でやるべきことを順番に整理しました。
こんにちは。つくば市の税理士法人FLOW会計事務所、代表税理士の佐藤です。
創業1年目のお客様から、決算の2か月前にこう言われることがあります。
「レシート、まだ箱に入ったままなんですが……」
そうなると、決算までの数週間が苦行になります。しかも、その1年間の経営判断は、数字を見ないまま行われていたことになります。
この記事の結論
- 経理の目的は申告ではなく、毎月の判断材料を作ること
- 最初にやるのは口座とカードの分離。ここを怠ると後の全工程が重くなる
- 証憑は入れる場所を1つに決める。種類ごとに分けない
- クラウド会計は連携を設定した時点で8割終わる
- 月次で見る数字は3つで十分。現預金残高、粗利率、固定費
- 月初10日までに前月を締めるリズムを作る
- 完璧を目指さない。「毎月同じことを繰り返せる形」が正解
経理は申告のためにやるのではありません
まず前提を揃えておきます。
創業期の経営者の多くは、経理を「年に一度、税務署に出すための作業」と捉えています。だから後回しになります。
しかし実際には、経理の本当の役割は別のところにあります。
| 目的 | 必要な頻度 |
|---|---|
| 税務申告 | 年1回 |
| 経営判断の材料づくり | 毎月 |
| 融資審査への対応 | 随時(試算表を求められる) |
| 資金繰りの把握 | 毎月、できれば毎週 |
融資を受けている会社なら、金融機関から試算表の提出を求められます。 「まだできていません」と答えた瞬間、管理ができていない会社という評価になります。
経理を毎月回すのは、税務のためではなく自分のためです。
ステップ1:口座とカードを分ける(最初の1週間)
これが全部の土台です。 ここを曖昧にしたまま進めると、後のすべての工程が重くなります。
やること
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法人口座を開設する | 設立後すぐ。審査に2〜3週間かかることもある |
| 法人クレジットカードを作る | 法人口座とセットで |
| 個人の支払いと完全に分ける | ここが本題 |
なぜ分けるのか
個人のカードで会社の経費を払うと、こうなります。
- 毎月、明細から「これは会社、これは個人」と仕分ける作業が発生する
- 仕分けの判断を忘れると、後から思い出せない
- 役員借入金という勘定科目が積み上がる
- クラウド会計の自動連携が機能しない
逆に、法人カード1枚で会社の支払いを完結させれば、明細がそのまま帳簿になります。
法人口座が開設できるまでの期間はどうするか
設立直後は法人口座がまだありません。この期間の支払いは個人で立て替えることになります。
立替えたものは、必ず一覧にしてください。 日付、内容、金額、領収書。あとから「創立費」「開業費」として処理できます。この整理をしておくと、記事09で触れたみなし自己資金としても使えます。
ステップ2:証憑の置き場所を1つに決める(2〜3週目)
「種類ごとに分ける」をやめてください
よくある失敗が、これです。
- 領収書は封筒に
- 請求書はファイルに
- ネットで買ったものはメールのまま
- 交通費は手帳にメモ
種類ごとに分けると、どれか1つは必ず破綻します。 そして破綻した1つを探す時間が、毎月発生します。
入口は1つにする
おすすめは、スマホで撮って1か所に送る方法です。
| 支払いの種類 | やること |
|---|---|
| 紙の領収書・レシート | その場でスマホで撮影 → 指定の場所へ |
| 紙の請求書 | 受け取ったら撮影 → 同じ場所へ |
| PDFの請求書 | ダウンロードして同じ場所へ |
| ネット購入の確認メール | PDF化して同じ場所へ |
「もらったらその場で撮る」を習慣にすると、机の上にレシートが溜まりません。財布に入れた時点で、半分は行方不明になります。
電子帳簿保存法について
2024年1月から、電子取引でやり取りした請求書・領収書は、電子のまま保存することが義務になりました。メールでPDFを受け取ったものを印刷して紙で保管する、というやり方は認められません。
ただし、創業期の会社が身構える必要はありません。クラウド会計のストレージ機能を使えば、要件を満たした保存が自動的にできます。 これも「入口を1つにする」理由の一つです。
ステップ3:クラウド会計の連携を設定する(1か月目)
マネーフォワードでもfreeeでも、やることは同じです。
設定する連携
| 連携先 | 効果 |
|---|---|
| 法人銀行口座 | 入出金が自動で取り込まれる |
| 法人クレジットカード | 利用明細が自動で取り込まれる |
| 決済サービス(使っていれば) | 売上データが自動で取り込まれる |
ここを設定した時点で、記帳作業の8割は終わります。 残りは、取り込まれた明細に勘定科目を割り当てる作業だけです。
そして一度割り当てた取引は学習されるので、2か月目以降はさらに楽になります。
最初の1か月だけは、丁寧に
逆に言えば、最初の1か月の割り当てが雑だと、間違ったまま学習されます。 ここだけは時間をかけてください。迷ったものは税理士に聞いてしまったほうが早いです。
どちらのソフトを選ぶかについては、次回あらためて扱います。
ステップ4:月次で見る数字を3つに決める(2〜3か月目)
試算表には何十もの科目が並びます。全部見ようとすると、結局見なくなります。
創業期に毎月見るべきは、この3つで十分です。
1. 現預金残高と、そのトレンド
今いくらあるか、先月より増えたか減ったか。 これだけで資金繰りの大枠がわかります。
増えているなら問題ありません。減っているなら、何か月でゼロになるかを計算してください。これが一番大事な数字です。
2. 粗利率
売上から売上原価を引いた粗利が、売上の何%か。
この率は、事業モデルが崩れていないかを示します。 値引きが増えたり、原価が上がったりすると、ここに真っ先に表れます。創業計画書で置いた率と比べてください。
3. 固定費の月額
家賃、人件費、通信費、サブスクリプション。売上に関係なく出ていくお金の合計です。
これがわかると、損益分岐点の売上が自動的に出ます。
損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 粗利率
固定費が月60万円、粗利率70%なら、月商86万円を超えれば黒字です。この数字を知っていると、営業の目標が具体的になります。
月初10日までに前月を締める
リズムの話です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 毎日・その都度 | 証憑を撮って指定の場所へ |
| 月初3営業日 | 前月の明細に科目を割り当てる |
| 月初10日まで | 前月の試算表を確認する |
| 四半期ごと | 税理士と着地予測を確認する |
「月初10日まで」に意味があります。
これより遅いと、数字を見たときには次の月が半分終わっています。打てる手が減ります。10日までに前月が見えていれば、その月の残り20日で手を打てます。
逆に、完璧さは要りません。多少の未確定があっても、10日に見ることのほうが大事です。
よくある失敗パターン
1. 領収書を箱に溜める
決算前にまとめてやろうとすると、1年分を数日で処理することになります。 内容を思い出せず、経費にできるものを落とします。
2. 個人カードと混ぜる
前述のとおりです。毎月の仕分け作業が永遠に続きます。
3. 完璧な経理を目指して挫折する
創業期の経理は、完璧である必要はありません。 毎月同じことを繰り返せる形が正解です。凝った管理表を作っても、3か月で続かなくなります。
4. 税理士に丸投げして数字を見ない
記帳を任せるのは合理的です。ただし、出てきた試算表を見ないなら意味がありません。 月次の数字を見て判断するのは経営者の仕事です。
5. 納税資金を別にしておかない
創業期によくあるのが、利益が出た翌期に納税で資金が尽きるパターンです。法人税、消費税、社会保険。利益の3割程度は別口座に置いておくくらいでちょうどいいです。
よくあるご質問
Q. 自分でやるか、税理士に任せるか、どちらがいいですか?
A. 最初の数か月は自分でやってみることをおすすめします。 お金の流れが体感でわかります。そのうえで、時間が惜しくなったら任せてください。一度も触らずに丸投げすると、出てきた数字の意味がわかりません。
Q. 現金での支払いはどう管理しますか?
A. できる限り減らしてください。 どうしても現金が必要な場合は、小口現金として一定額を管理し、残高を合わせます。ただし創業期の一人会社なら、法人カードに寄せて小口現金そのものを持たないのが一番楽です。
Q. 経費にできるかどうか、どう判断しますか?
A. 基準は「事業に必要な支出かどうか」です。迷うものは、まず記録を残して税理士に確認してください。判断がつかないから捨てる、が一番もったいないです。
Q. 従業員を雇ったら何が変わりますか?
A. 給与計算と社会保険の手続きが加わります。源泉所得税の納付(原則毎月、特例で半年に1回)も発生します。経理の負荷が一段上がるタイミングなので、雇用の前に体制を整えてください。
Q. インボイス制度への対応は必要ですか?
A. 登録するかどうかで扱いが変わります。この判断は別途詳しく扱いますが、登録した場合は受け取った請求書がインボイス要件を満たしているかの確認が経理業務に加わります。
型をつくるのは、今しかありません
最後に一つ。
経理の型は、取引が少ないうちにしか作れません。
創業直後は、月の取引が数十件しかありません。この段階なら、口座を分けるのも、証憑の入口を1つにするのも、半日で終わります。
これが月数百件になってから直そうとすると、過去の整理と新しい運用を並行することになり、何倍も大変です。 そして忙しくなってからでは、手がつけられません。
事業が小さいうちに型を作って、事業と一緒に育てる。 これが一番コストの低いやり方です。
FLOW会計事務所では、新規でご契約いただくお客様の約9割が創業1年未満の方です。最初の体制づくりから一緒にやるのが、私たちの標準的な仕事です。
FLOWのサポート
- スタートアップ会計顧問 … クラウド会計を使った経理体制の設計、月次決算、決算申告
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本記事は2026年9月時点の公表情報に基づいています。制度内容・費用は変更される可能性がありますので、最新の情報は各機関または当事務所までご確認ください。







