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一人社長の社会保険|役員報酬0円にする前に知るべきこと

法人は社長1人でも社会保険への加入が義務です。役員報酬を0円にすれば加入対象外になりますが、それで得をするとは限りません。負担は労使合計で報酬の約28%。0円にしたときに失うものと、実際の保険料を実額で整理しました。

こんにちは。つくば市の税理士法人FLOW会計事務所、代表税理士の佐藤です。

前回、役員報酬の決め方を扱いました。その中で「役員報酬0円は多くの場合で損」と書きましたが、その理由をきちんと説明していませんでした。今回はそこを詳しく見ます。

創業期のご相談で、こう聞かれることがあります。

「社会保険、入らない方法ってありますか?」

あります。 ただし、その方法を選ぶ前に知っておくべきことがあります。

この記事の結論

  • 法人は役員が社長1人だけでも、健康保険と厚生年金は強制適用
  • 加入手続きは設立から5日以内。業種や従業員数は関係ない
  • 唯一の例外が「役員報酬0円」。報酬がなければ被保険者になりません
  • ただし0円にすると、前回計算したとおり年20.8万円ほど負担が重くなるケースがある
  • さらに傷病手当金・出産手当金・厚生年金の報酬比例部分を失う
  • 保険料は労使合計で報酬の約28.1%。ただし標準報酬月額には上限があり、高額報酬では比率が下がる
  • 未加入のまま放置すると、最大2年さかのぼって徴収されます

法人は一人でも強制適用です

まず、誤解されやすい点を整理します。

個人事業主の場合、従業員が5人未満なら社会保険は任意です。業種によっては5人以上でも適用除外があります。

法人は違います。役員が1人だけでも、従業員がゼロでも、強制適用事業所です。業種も規模も関係ありません。

健康保険・厚生年金雇用保険・労災保険
一人社長の法人強制加入対象外(役員は原則加入できない)
従業員を雇った法人強制加入従業員について加入義務
個人事業(従業員5人未満)任意従業員について加入義務

役員は雇用保険に入れません。 失業給付がないということです。ここも一人社長が見落としやすい点です。

手続きの期限は5日以内

書類提出先期限
健康保険・厚生年金保険 新規適用届年金事務所事実発生から5日以内
被保険者資格取得届年金事務所事実発生から5日以内

つくば市を管轄するのは土浦年金事務所です。設立登記が完了したら、登記事項証明書を持ってすぐ手続きしてください。


「役員報酬0円」という唯一の抜け道

社会保険の保険料は、報酬をもとに計算されます。報酬がゼロなら保険料も計算できません。 したがって、役員報酬0円の役員は被保険者になりません。

これが、法人でありながら社会保険に入らない唯一の方法です。

ただし、この設計にはコストがあります。 4つあります。

コスト1:税負担がむしろ重くなることがある

前回の記事で、利益1,000万円のケースを計算しました。

役員報酬総負担(法人税+所得税+住民税+社会保険料)
0円270.1万円
170万円249.3万円

役員報酬0円のほうが、20.8万円重くなります。

理由は2つです。

  • 報酬を払えば損金になり、法人税が減る
  • 給与所得控除74万円と基礎控除104万円で、年178万円までは所得税がほぼかからない

つまり、役員報酬0円は「税金がかからない受け取り枠」を丸ごと捨てている状態です。社会保険料を払ってもなお、報酬を取ったほうが手元に残ります。

「社会保険料を節約するため」という理由での0円設定は、計算すると逆効果になっていることが多いのです。

コスト2:傷病手当金がなくなる

健康保険の被保険者には傷病手当金があります。病気やケガで働けなくなったとき、標準報酬日額の3分の2が、最長1年6か月支給される制度です。

国民健康保険にはありません。

一人社長にとって、「自分が倒れたら収入がゼロ」は最大の経営リスクです。従業員がいれば事業は回りますが、一人ならそのまま止まります。

傷病手当金は、その状態に対する唯一の公的な備えです。これを民間の所得補償保険で代替しようとすると、相応の保険料がかかります。

コスト3:将来の年金が基礎年金だけになる

厚生年金は、国民年金(基礎年金)に報酬比例部分が上乗せされます。役員報酬0円だと、この上乗せがありません。

国民年金保険料を払い続けても、受け取れるのは老齢基礎年金のみです。障害年金・遺族年金も基礎部分だけになります。

創業期は先のことを考えにくいものですが、この差は40年積み上がります。

コスト4:住宅ローンや賃貸の審査

役員報酬0円は、書類上「収入ゼロ」です。

住宅ローンの審査、賃貸契約、クレジットカードの申込。すべて源泉徴収票や課税証明書で判断されます。会社に利益が出ていても、個人の収入証明が出せません。

創業と同時期に家を買う、事務所を借りる予定があるなら、役員報酬0円は致命的になり得ます。


社会保険料はいくらかかるのか

協会けんぽ茨城支部の令和8年度料率(健康保険9.52%、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%)で計算します。40歳未満・介護保険料の対象外のケースです。

月額報酬年間報酬会社負担本人負担労使合計報酬に対する比率
0円0円――加入対象外―
10万円120万円16.8万円16.8万円33.7万円28.1%
20万円240万円33.7万円33.7万円67.3万円28.1%
30万円360万円50.5万円50.5万円101.0万円28.1%
40万円480万円67.3万円67.3万円134.6万円28.1%
50万円600万円84.2万円84.2万円168.3万円28.1%
65万円780万円109.4万円109.4万円218.8万円28.1%
80万円960万円118.2万円118.2万円236.3万円24.6%

上限があります

表の最後の行だけ、比率が下がっているのにお気づきでしょうか。

厚生年金の標準報酬月額には上限があり、月65万円で頭打ちになります(健康保険の上限は月139万円)。それ以上報酬を上げても、厚生年金保険料は増えません。

つまり、役員報酬が月65万円を超えたあたりから、社会保険料の負担率は下がっていきます。 高額報酬を取る場合、社会保険料の「重さ」は思ったほどではありません。

この構造を知っておくと、報酬設計の判断が変わることがあります。

40歳になったら増えます

40歳以上65歳未満は介護保険料が加わります。令和8年度の料率は全国一律1.62%(労使折半)。

40歳の誕生月から自動的に引かれ始めます。 資金繰りの計画に入れておいてください。


役員報酬0円が成立する場合もあります

否定ばかり書きましたが、0円が合理的なケースもあります。

ケース理由
他社で常勤役員・従業員として社会保険に加入しているすでに保険に入っているため、二重に払う必要がない
配偶者の扶養に入っている健康保険の被扶養者として保障を受けられる
設立直後で売上がまったく立っていない報酬を払う原資がない
資産管理会社など、実質的な稼働がない法人役員としての実態が薄い

特に1つ目のケースは実務でよくあります。 本業を持ちながら副業として法人を作る場合、本業側で社会保険に加入しているので、副業法人では0円にする設計が合理的です。

なお、複数の会社から役員報酬を受ける場合は「二以上事業所勤務届」が必要です。報酬を合算して保険料を計算し、各社で按分します。提出漏れが多い書類なので注意してください。


未加入のリスク

「バレなければいい」と考える方がまれにいらっしゃいますが、おすすめしません。

法人の設立情報は登記され、法人番号を通じて年金機構が把握できます。 実際、未加入事業所への加入指導は継続的に行われています。

そして加入指導に応じない場合、職権で強制適用となり、最大2年さかのぼって保険料が徴収されます。

月30万円の報酬で2年さかのぼると、労使合計で約202万円。一括での請求です。創業期の会社にとって、これは致命傷になり得ます。

加えて、融資審査でも見られます。 社会保険の未加入は、金融機関にとって「法令を守らない会社」というシグナルです。


よくあるご質問

Q. 役員報酬を月1万円にすれば、保険料は安く済みますか?

A. 標準報酬月額には下限(月5.8万円)があり、それ以下の報酬でも下限額で計算されます。極端に低い報酬にしても保険料はゼロになりません。 それなら、前回の記事で示した「非課税枠を使い切る水準」まで取ったほうが合理的です。

Q. 非常勤役員なら加入しなくていいですか?

A. 勤務実態で判断されます。出勤日数、業務内容、報酬額などから総合的に見られるため、「非常勤と書いてあるから対象外」とはなりません。判断に迷う場合は年金事務所に確認してください。

Q. 社長だけ加入して、従業員は加入させないことはできますか?

A. できません。要件を満たす従業員は全員加入させる義務があります。週の所定労働時間が正社員の4分の3以上なら対象です。パート・アルバイトについても一定規模以上の企業では適用が拡大しています。

Q. 保険料の負担が重くて払えません。

A. まず年金事務所に相談してください。分割納付や猶予の制度があります。放置すると延滞金が加算され、最終的に差押えに至ります。滞納は融資にも影響するため、早めの相談が不可欠です。

Q. つくば市の管轄はどこですか?

A. 土浦年金事務所です。手続きは電子申請(e-Gov、GビズID)でも可能で、窓口に行く必要はありません。

Q. 社会保険の手続きも頼めますか?

A. FLOWグループには社会保険労務士事務所があります。設立時の新規適用から、従業員を雇ったときの手続きまで対応できます。 税務と労務を分けて別々の事務所に依頼すると、役員報酬の設計で連携が取れないことがあります。


「入らない方法」より「いくらで入るか」

最後に一つ。

社会保険の相談は、たいてい「入らずに済む方法はないか」から始まります。気持ちはよくわかります。報酬の28%は、創業期には重い数字です。

ただ、この記事で見てきたとおり、0円にしても得になるとは限りません。 税負担が増え、傷病手当金を失い、年金が減り、収入証明が出せなくなります。

本当に考えるべきは「入るか入らないか」ではなく、「いくらの報酬で入るか」です。そしてその答えは、前回の記事で扱った役員報酬の設計そのものになります。

社会保険と役員報酬は、切り離して考えられません。 どちらか一方だけを最適化しようとすると、必ずもう一方で損をします。

FLOW会計事務所では、新規でご契約いただくお客様の約9割が創業1年未満の方です。税務と労務をグループ内で一体で見られるので、報酬設計と社会保険をまとめてご相談いただけます。

FLOWのサポート

無料相談のあとに契約いただく必要はありません。ご予約制で土日祝日も対応しています。


参考リンク(一次情報)

本記事は2026年9月時点の公表情報に基づいています。制度内容・費用は変更される可能性がありますので、最新の情報は各機関または当事務所までご確認ください。