税理士法人FLOW会計事務所です。

今回は、資金繰りについてのお話です。

みなさん、中小倒産防止共済(経営セーフティ共済)はご存知でしょうか?

一言でお伝えすると「国(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)が、倒産リスクからあなたを守る共済」です。

 

今回は、中小企業倒産防止共済(以下「倒産防」)について、シンプルに解説いたします。

 

まず、この制度は、倒産防止「共済」という制度名称なのですが、「共済金の貸付」「一時金の貸付」という2つの側面から資金繰りをサポートしてくれます。

なお、いずれの貸付を受ける場合でも、1年以上事業をやっていて、かつ、一定期間以上にわたって掛金を納めていることが必要になります。

 

月の掛金は5,000円~200,000円までの範囲(5,000円単位)で自由に選べて、支払った掛金は経費で落とすことができます。また、累積の掛金総額は800万円まで掛けられます。

 

◇共済金の貸付

①貸付を受けられる条件

取引先事業者が倒産し、売掛金債権や前渡金返還請求権が回収できなかった場合

*ただし、取引先が「夜逃げした場合」「倒産防を利用してから6か月未満で取引先が倒産した場合」「倒産までに倒産防の掛金を6か月以上払っていない場合」などの場合には貸付は受けられません。

*「倒産」とは破産や再生手続開始等の申し立てがなされた場合や手形交換所に参加する金融機関で取引停止処分を受けた場合を意味します。

 

②貸付限度額

「回収困難となった売掛金債権等の額」と「掛金総額(前納掛金は除く)の10倍に相当する額のいずれか少ない額」となります。

 

③貸付利子

無利子のため、利子自体はありません。

ただし、貸付を受けた金額の10分の1の金額が、これまでの掛金総額から差し引かれますので、実質有利子とも言えます。

 

④返済期間

貸付額が5000万円未満の場合⇒5年

貸付額が5000万円以上6500万円未満の場合⇒6年

貸付額が6500万円以上8000万円未満の場合⇒7年

上記の各返済期間には6か月の据置期間が含まれています。

 

以上が共済金の貸付の概要になっています。

いかがでしょうか?

不測の事態に備えられることが最大のメリットですが、貸付の条件が厳しいことと返済期間が難点ではあります。

5000万円借りても据置除くと4.5年で元本を返済しないといけません。この場合、1か月に90万円近く返済しなければなりませんからね…

 

◇一時期金の貸付

①貸付を受けられる条件

とくにありません。

取引先が倒産していなくても、必要に応じて貸付を受けることができます

 

②貸付限度額

掛金納付月数1か月~11か月⇒0円

掛金納付月数12か月~23か月⇒掛金総額×75%×95%

掛金納付月数24か月~29か月⇒掛金総額×80%×95%

掛金納付月数30か月~35か月⇒掛金総額×85%×95%

掛金納付月数36か月~39か月⇒掛金総額×90%×95%

掛金納付月数40か月以上⇒掛金総額×95%×95%

掛金総額が掛金上限(800万円)の場合⇒800万円×100%×95%(760万円)

 

③貸付利子

金融情勢によって変動がありますが、0.9%程度が想定されます。

 

④返済期間

1年間

 

こちらも、満額760万円借りて、1年返済となると月63万円程度の返済となります。

返済期間が短いので、運転資金として貸し付けを受けるというよりかは、共済同様に緊急時の臨時借入としての位置づけで利用するケースがほとんどかなと考えています。

もしくは、「支払いサイトが先行し過ぎて入金までの期間が長い場合」のつなぎ的な用途が想定されます。

 

◇解約について

倒産防を解約する場合には、解約手当金というかたちで掛金の全部から一部が戻ってきます。

解約手当金=掛金総額×支給率(~100%)

 

ただし、掛金の支払っている期間が12か月未満の場合には、解約手当金はゼロ円です。

 

◇税務上の取り扱い

掛金:個人法人ともに経費に算入できます。

解約手当金:個人法人ともに収入として計上する必要があります。

 

以上、簡単ではございますが、制度概要になります。

 

税金の観点からお伝えすると、倒産防を節税スキームとして利用するのは難易度が高いと考えています。

理由としては、単なる課税の繰り延べになってしまう可能性が高いためです。

 

例で考えてみましょう。

~法人の場合(法人税率33%と仮定した場合)~

①複数年掛けて掛金総額800万円をかけたとき

通算264万円(800万円×33%)税金が減ります。

②解約手当金800万円を受け取ったとき

受け取った解約手当金800万円に対して264万円の税金が課されます。

 

掛金を支払っていたときには税金が減って、受け取ったときには税金が増えます。結果として課税を受けるタイミングを後ろに引き延ばしただけになっています。

 

「解約手当金を受ける事業年度が赤字であれば264万円の税金はかからないのでは?」

という意見もあると思います。

 

これについても例で考えてみましょう。

①複数年掛けて掛金総額800万円をかけたとき

通算264万円(800万円×33%)税金が減ります。

②赤字900万円の年に解約手当金800万円を受け取ったとき

赤字900万円>800万円⇒赤字900万円が解約手当金800万円を上回るため、その年は納税がありません。

 

掛金支払い時に264万円税金が減って、解約手当金800万円は赤字と相殺で無税になるのであれば、最高の節税じゃないか!と一見思います。

 

しかし、どうでしょうか。

法人でも個人でも青色申告であれば、赤字を翌年以降に繰り越して、その赤字を翌年以降の黒字と相殺することができます。

この場合、解約手当金があった場合に翌年以降に引き継げる赤字は100万円。解約手当金が無かった場合に翌年以降に引き継げる赤字は900万円。

引き継いだ赤字は、翌年以降の黒字と相殺できることを考えると、解約手当金は赤字のタイミングで解約をしても黒字のタイミングで解約をしても、通年で見ると結論は同じということにお気づきでしょうか。

 

法人は課税所得が800万円超えると税率が上がります。

個人は累進課税で課税所得の多寡によって税率が変わります。

 

掛金を支払っている期間は税率が高めになるように、解約手当金を受け取る年は税率が低めになるように課税所得を調整すれば幾分の節税効果は見込めますが、狙ったとおりに売上や経費の計画を進めることは至難の業なので、「倒産防を節税スキームとして利用するのは難易度が高い」とお伝えさせていただきました。

 

難しい話になってしまいましたが、少しでもイメージが伝われば嬉しいです。

 

以上からも倒産防の使い方としては、節税がメインではなく、緊急時に備えて加入していただくのが良いかと思います。

 

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

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